【ライブレポート】クレナズム『2021〜本州を通りもん〜』 ツアーファイナル @代官山UNIT

ライブレポート

福岡発4人組バンド、クレナズムが、全国主要4都市を回る『ワンマンツアー2021〜本州を通りもん〜』のツアーファイナルを渋谷から東横線で一駅のライブハウス「代官山UNIT」で迎えた。

本来キャパ約500人程度を誇る代官山UNITは、コロナで制限がかかり収容人数が半分に制限されているとはいえ、されど300人。300枚のチケットをソールドアウトにして迎えた今夜のツアーファイナルは、クレナズム本人たちにとってもファンにとっても、特別で忘れられない夜として記憶に刻み込まれた。

本公演の終演後には来年のツアー詳細も発表されるなど、クレナズムの飛躍を予感させる一夜となったのではないだろうか。

最新EP.『Touch the finger』を中心に夏曲で挑む前半戦

にしなの『ヘビースモーク』がBGMとして繰り返し流れる場内で今か今かと開演の合図を待っていると、照明がスッと消えるのを合図に流れ出したSE。そのSEをバックに本日の主役・萌映(Vo/Gt)、けんじろう(Gt)、まこ(Ba)、しゅうた(Dr)がステージ上に続々と姿を見せる。各々のフォームで楽器を構え、向かい合って音を確かめ合い挨拶がわりに轟音を一斉にかき鳴らす4人。萌映が「ツアーファイナル東京、よろしくお願いします!」と開幕宣言を高らかにスタートした1曲目は『白い記憶』。まだライブ開始直後であることはお構いなしにエンジン全開で轟音のギターをかき鳴らし、フロアのムードをクレナズム一色に染めていく。あくまでBPMは低くてどのセクションにおいてもメロディは緩やかに滑り出すのに、そこにシューゲイザーの系譜を汲んだ轟音が覆い被さることで、途轍もない破壊力を持った音色へと変貌を遂げてしまう。フロアの空気を彩る萌映の歌声は力強くどっしりとした芯が通っており、轟音にかき消されるどころかその轟音すら牽引していくほどの頼もしさを感じる。サビではステージライトが青く光を放ち、幻想的なライブ空間を早々に作り出していた。

メンバーの背後に佇むスクリーンにクレナズムのロゴが浮かび上がり披露した『ラテラルアーク』では、サビで繰り返されるフレーズ《太陽ごめんね》にフォーカスするかのように、太陽光を彷彿とさせる黄色のビビッドな照明がステージを照らし、エモーショナルでもあり開放的なステージ景色を眼前にする。ここで「クレナズムともう一度夏を感じていってください。」と萌映が一言。夏の終わりを歌った『積乱雲の下で』に繋ぐと、花火や海の映像などが夏の季節感を想起させながら同時に歌詞も流れるようにスクリーンに表示されるVJ(ビジュアルジョッキー)演出が、各セクションの印象的なフレーズに合わせて次々と映し出されていく。大サビでは萌映の背後で満開の花火が何十発も咲き誇り、魂を込めて叫ぶかの如く放たれる歌声の力強さをより引き立てているようだった。続いて奏でられたのは、杪夏(びょうか)すなわち辞書の意味で”夏の終わり”を歌った『杪夏』。Aメロでメンバーが手拍子を煽るなどオーディエンスとの一体感を生み出しつつ、アップテンポなメロディーの内包するポップな雰囲気そのままに、爽やかな夏風の如く高速のアンサンブルを披露してみせた。

『積乱雲の下で』『杪夏』と”夏の終わり”をテーマにした2曲を歌ったところで、メンバーとオーディエンスの温かい拍手とともにツアーファイナル限りのスペシャルゲスト・クボタカイが登場。ここでは萌映とクボタカイのツインボーカルで、クレナズムがクボタカイを迎え入れたコラボ楽曲『解けない駆け引き』を披露する。楽曲の物語性を彩るVJ演出の素晴らしさは然ることながら、歌声に優しさが宿ったボーカリスト2人の自然体な掛け合いが心地良い。楽曲では《駆け引きは苦手なんだけど》と語る恋愛に奥手な主人公を据えているが、この2人に関していえば対極的で、すでに完成された駆け引きが行われていたように思える。夏の情景にゆったりと溶けていくメロディに合わせてオーディエンスも自ずと手拍子を打ち鳴らし、青を基調とした光を帯るフロア全体は浮遊感に包まれた。甘い歌声で大勢のクレナズムファンを魅了してみせたクボタカイにひとまずの別れを告げ、フォーメーションを変えずスッ…とメロディを引き寄せるように『あまりふたつ』を披露。メロウな雰囲気を帯びたサウンドと萌映の透き通る声がフロアを優しく包み込む中、時折ハネるキック音の心地良さが光っていたのが印象的だ。

続くMCで萌映は本公演のチケットがソールドアウトし、大勢のオーディエンスを目の前に演奏できていることに喜びを見せた。「(あまりの嬉しさに)泣きそうですけど今は我慢します」とクールに堪える様子にも、彼女の根底にあるブレない強さのようなものを感じる。「前半のセトリは夏の曲縛りで組んだ」と明かし、「(こんなコロナ禍で)夏の思い出を作れなかった人たちの思い出の隙間に、クレナズムの曲をスッと入りこませたい。そんな想いです。そういえばまだあの曲やってませんよね。次の曲で睨みつけてもいいですか?」とオーディエンスにもおそらく理解が及んだところで、ドラマチックなVJ演出をバックに『ひとり残らず睨みつけて』をスタート。MCでも語っていた「思い出の隙間にクレナズムの曲をスッと入りこませたい」という狙い通りに、萌映の歌声は確かに思い出の隙間めがけて真っ直ぐに突き抜けていた。眼前の闇を切り裂くように邁進する力強いアンサンブル、どこまでも突き抜ける意思を持った歌声が曲の終盤に向けて加速していき、胸の鼓動が一段と高まっていくのを感じるのだった。

機材トラブルもうまく乗りこなし迎えた怒涛の後半戦

『ひとり残らず睨みつけて』を疾走感に乗せながら披露した後、機材トラブルが発生。萌映(Vo/Gt)のギターの弦が切れた。萌映がステージから捌けた後トラブル解消までの間、残された男メンバー3人で愉快に物販紹介をして場を繋いだ。トートバッグの絵はドラムのしゅうたが書いたことを明かすと、ファンは驚く様子を見せる。ちょうど良いタイミングで萌映が復活し、「東京に来ると、何かとトラブルが起こる。それだけ演奏に気合が入ってる証拠です。後半戦、よろしくお願いします!」とポジティブさを見せながら後半戦の開幕を高らかに宣言。ドラムのクールなカウントから『ヘルシンキの夢』が披露され、繊細なギターリフが鳴り響くAメロに合わせ手拍子が起こるなど、オーディエンスと一体となってエモーショナルな雰囲気を作り上げていった。間奏やアウトロが長尺の『velvet rain』では、ボーカルレスな部分をうまく利用して自分たちのバンドの音をクールに刻みつけた。

続いて、少しBMPを下げて流れてきたのは『酔生夢死』のイントロ。スクリーンには楽曲の世界観に準えた映像が歌詞とともに投影され、何よりサビへと駆け上がっていくバンドアンサンブルの、宇宙へ届いてしまいそうなほどの高揚感には驚かずには居られない。サビで解き放たれた萌映の歌声には、怠惰も憎悪も全ての負の感情を掻き消してプラスの感情に再構築してしまうほどのエネルギーを感じた。シューゲイザーの系譜を汲んだ轟音で唸り続けるギターサウンド、萌映の圧倒的な高音がぶつかり合うことなく共鳴を続け、ボーカルレスとなったアウトロではその轟音を歪ませながら徐々にフェードアウトしていく。轟音の余韻を残したままに再び轟音のイントロをかき鳴らして繋がれた『花弁』では、和やかな緑色の照明がステージを照らす中で轟音を土台にして《形のないさよなら 白紙にして》など曲の核となるフレーズを、一言一言を大切にドロップしていく。フロア全体に鳴り響くほどの轟音を上手く乗りこなす萌映の歌唱力は見事なものだが、それと同時にシューゲイザーの系譜の軌道に独自の解釈で乗り、耳馴触りの良いメロディーに変えてしまうサウンドメイクそのものにも驚かされる。

「次の曲には新曲を持ってきました。」と新曲(タイトル不明)を披露し、アウトロの最後の最後まで歪んだ轟音を気持ち良いほどにぶちかますと、『365』ではピアノのサウンドが物憂げな歌声に覆い被さるように美しく鳴り、最後に”365″の文字列がスクリーンにパッと表示されるVJ演出もクールに決まっていた。歌詞が流れるスクリーンをバックにクレナズムが本編最後の曲として披露したのは、『あなたはさよならをここに置いていった』。サビ直前に起こるブレイクでフロアの空気感が一変し、そこからサビが爆発的に放たれた瞬間の胸の高鳴りは忘れられない。轟音と静寂のメリハリがはっきりしている楽曲なこともあり、生音から得られる感動もより大きい。ラストを飾るにふさわしい演奏を披露し終えると、鳴り止まない拍手を浴びながらステージを後にした。

オーディエンスの手拍子に応え、再びステージに登場するメンバー。ここでクボタカイをステージに迎え入れ、「クボタカイくんを知らない人も、ぜひ彼を好きになって帰ってください。めちゃくちゃ良い曲です。」と萌映が太鼓判を押し、クボタカイ本人も「自分にとって大切な曲」と語る『僕が死んでしまっても』を、クレナズムのバックバンドで披露する。ライブ前半に歌われたコラボ楽曲『解けない駆け引き』でもそうであったが、クボタカイの甘い歌声とクレナズムのエモ系サウンドは本当によく馴染む。重いテーマを感情剥き出しに歌うクボタカイの表現力で、フロア全体の空気感を自分色に染め上げていた。「大好きなメンバーとこの素晴らしい瞬間を共有できて嬉しかった。ありがとうございました!」とクボタカイは清々しい面持ちでステージを後にすると、「いつも最後にやってる曲やります。大切な曲です。」と萌映。いよいよ正真正銘のラストソング『青を見る』を青々と照らされたステージ上で披露し、萌映の自信に満ちた歌声とともに、再び彼らの代名詞でもある轟音を響かせた。ステージを去る際、クレナズムメンバーそれぞれが深々とお辞儀をする中で、最後まで中々顔を上げずにステージの中心で深々とお辞儀を続ける萌映の姿が印象的であった。

まとめ・セットリスト

クレナズムのフロントマン萌映(Vo/Gt)はMCで代官山UNITを満員にできた喜びを大いに語っていたが、クレナズムの4人は本日のツアーファイナルを終えて一段と成長し、次なるステージへと足を踏み入れた。もっと多くのオーディエンスの目の前で、もっと大きなステージでその伸びやかな歌声とドラマティックな轟音を響かせ、これまで以上の感動を与えてくれるに違いない。

「クレナズムの響かせる音には、観客一人ひとりが豆粒に見える程の広々とした空間がよく似合う。」

そう確信せざるを得ない、ツアーファイナルとなったのではないだろうか。

セットリスト

M1. 白い記憶

M2. ラテラルアーク

M3. 積乱雲の下で

M4. 杪夏

M5. 解けない駆け引き

M6. あまりふたつ

M7. ひとり残らず睨みつけて

M8. ヘルシンキの夢

M9. velvet rain

M10. 酔生夢死

M11. 花弁

M12. 新曲(タイトル不明)

M13. 365

M14. あなたはさよならをここに置いていった

Enc1. 僕が死んでしまっても(クボタカイ)

Enc2. 青を見る

『クレナズム 春のバリよかツーマンツアー2022』開催決定

ツアーファイナル終演後に、来年開催のツアー『クレナズム 春のバリよかツーマンツアー2022』の詳細が発表された。

クレナズムの音楽を体験したことがない人も、来年のツアーをきっかけに一度その轟音に触れてみてほしい。今回の『ワンマンツアー2021〜本州を通りもん〜』で存在感を放っていたVJ演出にも、より一層の期待がかかる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました