【ライブレポート】無期限活動休止を控えたPEDROが残した、儚くも煌びやかな轟音のギターロック

ライブレポート

無期限活動休止を惜しむ観客で埋め尽くされたフロア全体を隅々まで見渡しながら、アユニ・Dは語っていた。「PEDROで過ごした楽しかった時間、幸せな時間はぜんぶ私の<本当>です」と。

2021年12月22日、BiSHのアユニ・DによるソロプロジェクトPEDROが、無期限活動休止前最後の単独公演”さすらい”を神奈川・横浜アリーナにて開催した。PEDRO最後の有志を見届けようと、横浜アリーナには5千人以上のPEDROファンが駆けつけた。

豆知識として記しておくと、PEDROというバンド名はアユニ・Dが好きな映画『ナポレオン・ダイナマイト』に出てくる主人公の友人・ペドロをリスペクトして名付けられている。

PEDRO、突然の無期限活動休止発表

PEDROの無期限活動休止は、今年9月7日に行われた”SENTIMENTAL POOLSIDE TOUR” 東京・Zepp DiverCity公演終了後、ステージ上にひとり残ったアユニ・Dの口から発表された。

「PEDROは無期限活動休止します。」

あっさりと不意打ちのように突きつけられたこの言葉は、その日フロアを埋め尽くしていたPEDROファンの全神経に重くのしかかった。

BiSHのアユニ・D、ナンバーガールのレジェンドギタリストこと田渕ひさ子、大学生ドラマー毛利匠太の3人編成で2018年9月から活動を開始したロックバンド・PEDRO。丸3年と積み上げてきた歴史に、本公演”さすらひ”をもって幕を下ろすこととなる。

PEDRO最後のアルバム『後日改めて伺います』レビュー記事はこちら→PEDROアルバムレビュー

これまでのPEDROを総決算する勢いで突き進む前半戦

フロア全体が暗転し、拍手で迎え入れられながら青い光の中ステージの上に姿を見せる3人。アユニは”LOVE FOR PEDRO”と書かれたTシャツを身に纏い、田渕ひさ子は緑色に白のボーダーが入ったポロシャツを、毛利匠太はスタイリッシュなジャケットを着用。服の系統を揃えるわけでもなく各々が着たい服を着用するスタイルは、PEDROという孤高のバンドイメージを象徴している。アユニが「 PEDROです、よろしくどうぞ」と口を開き披露した1曲目は、感傷的な出来事すら肯定してやろう、と言わんばかりの気概の詰まった『感傷謳歌』。メンバーの背後に佇むスクリーンに浮かび上がったのは、お馴染みのPEDROのロゴだ。今日ここでPEDROは活動休止を迎えるが、横浜アリーナに大きな痕跡を残して去るのだと言わんばかりに《やってやろうじゃないか》と堂々たる開幕宣言をオーディエンスと共有した。スーパードラマー毛利匠太によるクールなドラムのカウントから演奏されたのは、今年8月に配信リリースされた新曲『夏』。日差しを嫌ってきたアユニの、夏に対する心境の変化が謳われた曲だ。ステージ前方床面に複数設置されたセットから火花が噴射される演出が、キラキラした「夏」の景色をイメージさせる。青と黄色のライティングをメインにステージは照らされ、「夏」は意外と悪くない、楽しいものだと気づいたアユニの心の中を表しているようだ。《また夏まで生きようか》。消えてしまいたくなった時、アユニのこの言葉が救世主として颯爽と現れてくれる気がする。

「これまでの人生、ずっと猫背で生きてきました。でも気づいたのです。伸ばしてみないと、見えない世界があることに。もっといろんな世界、いろんな景色をみてみたい。皆さんも、いろんな世界をみてみたくはありませんか?横浜アリーナで、猫背を伸ばしてみませんか?」とアユニ。熱気に包まれるフロア全体で『猫背矯正中』を披露する。アユニの《宴は浮世で》に合わせ「YEAH!」とシャウトする毛利匠太の気迫が、オーディエンスのボルテージ、フロア全体に立ち込める熱気に離されんとばかりに追いついていた。情熱的な演奏を終えステージ上の3人、オーディエンスの猫背がしっかりと矯正されたところで、冷めやまぬ熱量そのままに初期の楽曲『GALILEO』を披露。「ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!」と気迫に満ちた合いの手やカラフルでド派手なステージ演出がオーディエンスを熱狂の渦に誘い、間奏で田渕ひさ子のギターソロもキュインキュインとうなり、終始ド派手に彩った。アウトロで歪ませたギターサウンドを引き連れて『Dickins』に繋ぐ。グリーンカラーをベースとしたサイケデリックな映像を背景に、アユニは叫び声をあげるように堂々と歌いきる。

「今から私が僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきます。人の温度を感じられないご時世、うまい事行かない世界の状況ではありますが、その中で気づくことはたくさんあります。」「皆さん、今日の体温は大丈夫ですか?その”温度”ではないんですけれども(笑)」とご時世ネタを挟みつつ戯けてみせるアユニ。何とも可愛いらしい。たどたどしいMCは、PEDROがロックバンドとしてどれだけ成長しようと変わることはない。「ペットボトルなどお飲み物をお持ちの方はお飲み物を、お持ちでない方は拳をあげてくださいませ。」「皆様の健康と人生を祝しまして、乾杯」とアユニの乾杯の音頭に合わせて、金色のビニールテープがステージからセンター席目掛けて大量に噴射される。白色の煌びやかな照明演出が、祝祭ムードを作り出していた。

熱気に包まれていたフロアの雰囲気を一変させるように投下された『浪漫』では、薄いピンクと白色のライトが優しく印象的で、フロアは浮遊感で満たされ先ほどまで縦ノリ中心だったオーディエンスが横ノリへと変化していく。2サビあたりで歌詞を間違えていたけれど、まあそんなところも気にならないくらいに心地よいムーディーな音世界が作り出されていた。Cメロでシューゲイズなギターの暴れっぷりは見事で、天才ギタリスト田渕ひさ子の存在の大きさに改めて気付かされる。演奏を終えて浮遊感の余韻に満たされたステージ上では田渕ひさ子にスポットライトが当てられ、『生活革命』のイントロを抒情的に披露。赤く染まった夕焼けのような演出、ノスタルジー溢れるメロディーを引き連れて、手を強く握ってくれるようなアユニの歌声。アユニ・Dと心で対話している錯覚を起こす、神秘的なベールを帯びた音世界に引き込まれた。

続くメンバー紹介パートで「スーパーギタリスト、田淵ひさ子さん!」「スーパードラマー、毛利匠太さん!」とアユニ。2人はそれぞれギターを歪ませ、ドラムを捌き、アユニの掛けとオーディエンスの拍手に応える。「お二人に何度も何度も救われてここまでやってこれました。最後のライブも2人とともにステージに立つことができて、とっても幸せ者です。ありがとうございます。」田渕ひさ子とアユニがじゃれあうような掛け合いがほっこり気持ちが暖かくなる。先ほどまでエッジーにギターをかき鳴らし続けていた人物とは思えないほどに、MCでの田渕ひさ子はふわふわしている。イタズラに「レジェンド神様女神様」と田渕ひさ子を形容し、それに照れる田渕ひさ子はあどけない少女のように目に映る。PEDROが始動して初期のころ、アユニと毛利のみで特訓に励んでいた時代の思い出などを振り返った。「私たち仲良くなれましたかね?」と問うアユニに対して毛利匠太は「仲良くさせて…いただいてもいいですか」と返答。それに対しアユニは「嫌です」とイタズラな笑みを浮かべながらキッパリ断る一節も見られた。彼らのこうした平和な空気感が好きだ。「大好きな2人と最後まで活動できて幸せです。PEDROの活動が終わったら、あの時間は幻だったのかな、夢だったのかな、なんて思うのかなと思うときもあったけど、PEDROで過ごした時間、それは全部私の中の”本当”です。あなた方も、あなた方の中の”本当”を大切に生きてください。ここで過ごした時間も、決して夢なんかではなくて全部全部本当。この楽しかった時間を思い出してくれたらと思います。」と、アユニはぶきっちょなりに想いを語り尽くした。

ノイジーなギター、エコーの効いたボーカルが象徴的な『pistol in my hand』、フロア全体に行き届くように照射されるカラフルなレーザーライトが眩しい『SKYFISH GIRL』とオルタナティブなナンバーを並べ、毛利匠太のタイトなドラムフレーズを皮切りに叫ばれたアユニの掛け声に合わせ、PEDRO初期楽曲の『自律神経出張中』に繋ぐ。バンドの結束が感じられるソリッドなアンサンブルで魅せると、『無問題』をBメロで手拍子で盛り立てるオーディエンスの熱気、レーザーライトの輝きを味方に軽快なリズムで披露した。勢いそのままにPEDROを象徴する代表曲『NIGHT NIGHT』をドロップし、アユニは最後毛利匠太の方に身体を向け直して音を残した。

活動休止前にアユニ・Dが伝えたい想いを詰め込んだ後半戦

PEDROのこれまでを総決算した前半戦を終え、アユニは語る。「何度も言ってきましたが、今日を持ちましてPEDROは活動を休止します。私たちは最後に『後日改めて伺います』というアルバムを作りました。この世界には音楽がたくさん溢れていて、PEDROの音楽はどこかの誰かにとっては何てことない音楽かもしれません。でも、この1枚は私たちとあなた方の中にずっと生き続けるように、と作ったアルバムです。これからもPEDROの音楽を可愛がってくれたら嬉しいです。次の曲はアルバムからやります。」「眠れない夜や、消えてしまいたい夜のお守りとなるように作った曲です」と披露したのは、『安眠』。青色のライティングを中心に安らかなライブ空間を作り出し、再び背後のスクリーンにPEDROのロゴを映し出す。ステージ上空の3つ連なる小型スクリーンには、白黒の3人が映し出されている。PEDROのロゴ、白黒の映像は後半戦を通して使用されることとなる。

《ぶきっちょな私たちはここで何を残せるか》と本日でラストを迎える自分たちに問いかけるように己と真正面から向き合って披露した『ぶきっちょ』では《また会う約束をしよう お元気でね》と、活動休止後も再び戻ってくることを今日この場にいる全ての者に約束する。オレンジ色を基調とした優しく温暖な照明演出に彩られながら『いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください』を明るいムードで演奏し、《今日でさよなら もう会うことはないね》と過去の自分に向けて決別を示した。先ほどは私たちとの再会を約束し、ここでは《もう会うことはないね》と脆弱な自分自身との決別を誓う。この2曲の並び順には、何か特別な意味合いを感じざるにはいられない。

地鳴りのように鳴らされるドラムから披露された『死ぬ時も笑っていたいのよ』では、各々がヘヴィーなグルーヴを包括しながら音をぶつけ合う。胸の奥に突き刺してくるようなエッジーなギターリフ、存在感を強めていくドラムに圧倒され、息が詰まるような思いだ。サウンドの様相が急旋回し、疾走感を纏ったギターフレーズが高揚を誘う『おバカね』では《また会いましょう》と再会を誓い、田渕ひさ子の洗練されたギターテクニックの導入から始まる『万々歳』では、光線銃が忙しなく暴れているかのようなレーザー光の攻撃的な演出に目が奪われ、間奏で轟くシューゲイズなギターの破壊力はスーパーギタリストの記名性を恣にしていた。毛利のドラムもダイナミックに躍動し、今のPEDROが最大限鳴らせる音を全身全霊込めてぶつけるような、今日一番の気迫が漲ったパフォーマンスを見せつけた。

熱気の立ち込めていたフロアが、白い光でファンタジックな空間へと変貌を遂げ演奏された『魔法』では、まるで魔法のようにメンバーの周りを取り囲む形で複数の焚火がパッと灯る演出、またステージ上部に現れたミラーボールから四方に発せられるレーザーライトなど、おそらく魔法力をコンセプトに作り込まれたであろう演出に神秘性を感じた。アユニの柔らかな歌声が《私が魔法で守るもの》と優しく、そして逞しくフロア全体を包み込んでいく。

白銀に染まった異世界に連れ込まれた後、アユニの「皆さん、楽しいですか?」に対して拍手で応えるオーディエンス。そのリアクションを感じて安心したのか「私も楽しいです。」とアユニ。「昨日のとかはとくに息ができなくて、なぜか涙が止まらなくなったりして。今日までちゃんと生きてきてよかったと思います。いつも本当にありがとうございます。もっと生きなきゃな、そう思わせてくれるのは大好きなPEDROの仲間たち、大好きなあなた方のおかげです。」と自分の弱さも見せつつ感謝の気持ちを伝えると、「ときには人を愛したり愛されたり、人はお互い様で生きています。人を愛すること、愛されることは怖いことではあるけど、恐れないで生きたいなと思います。何もかも嫌になりそうな時は、今日を忘れないで生きてほしいです。私もそうやって生きていたいと思います。またどこかでお会いできたら嬉しいです。どうかお元気で。今日は本当にありがとうございました。」とMCでそう語ったアユニは、人の尊さを綴った『人』を披露。間奏で赤→青→白と順々に移り変わるライティングがドラマティックに曲を彩る。優しい音、優しい歌声、優しい歌詞。優しさに包まれながら、人の温もりを感じる。

続く『吸って、吐いて』では、M2『夏』で見られた火花が噴射される演出が再び使用され、これまでPEDROとして磨き上げてきたすべてをここに置いていかんとする気概の感じられるソリッドなアンサンブルが炸裂した。メンバーの足元にスモークが焚かれる中で幻想的に披露されたラストナンバー『雪の街』では、再びパワーアップした新生PEDROとして帰ってくることを約束。シューゲイズなギターサウンドをアウトロで余韻を残すように轟かせ続け、幻想的な雪景色に消えていくような演出でアユニ・D、田渕ひさ子、毛利匠太の3人はステージから姿を消した。PEDROにアンコールなど必要ない。そう言わんばかりに、轟音の鳴り止んだフロア全体は瞬く間に明転した。

最後に

今回の横浜アリーナ単独公演”さすらひ”をもって、PEDROは無期限活動休止を迎えてしまった。悲しいニュースだ。自分は活動開始初期からPEDROをずっと追っていたわけではないし、PEDROのライブを生で見たのも過去に2回しかない。ただ、そんなPEDROライトファンの自分でも確信を持って言い切れることがただ一つだけある。それは、この3年でアユニ・Dは1人の無垢な少女からロックスターへと駆け上がったということ。アユニは勿論BiSHの活動にも全身全霊で取り組んでいるし、BiSHにおける功績も大きい。ただそれは、アイドルとしての功績だ。ロックスターとしての功績とは別軸の話。そう考えると、PEDROで見せたロックスターとしての成長はBiSHとは別軸で積み上げていったもので、新生クソアイドルと新生ロックスターの二刀流を果たす偉業を達成したわけである。こんなアイドル、今までにいただろうか。

アユニ・Dの成長を促したスーパーギタリスト・田渕ひさ子とスーパードラマー・毛利匠太に称賛の拍手を送りたい。この3人だからこそ、この3人でなければ見ることができなかった景色、歌えなかった歌が数え切れないほどにある。アユニ・Dがこれまで以上に成長し、スリーピースロックバンド・PEDROが一皮も二皮も剥けて戻ってくるその日を待ち侘びながら、感傷すら謳歌して生きていたい。

セットリスト

M1. 感傷謳歌
M2. 夏
M3. 猫背矯正中
M4. GALILEO
M5. Dickins
M6. 乾杯
M7. 浪漫
M8. 生活革命
M9. pistol in my hand
M10. SKYFISH GIRL
M11. 自律神経出張中
M12. 無問題
M13. NIGHT NIGHT
M14. 安眠
M15. ぶきっちょ
M16. いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください
M17. 死ぬ時も笑っていたいのよ
M18. おバカね
M19. 万々歳
M20. 魔法
M21. 人
M22. 吸って、吐いて
M23. 雪の街

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