【ライブレポート】 KANA-BOON『Re:PLAY TOUR』最低な夜を抜けた先にある希望の歌

ライブレポート

KANA-BOONのボーカル・谷口鮪の復帰後初となるライブツアー『Re:PLAY TOUR 2021-2022』が、10月30日(土)の大阪・なんばHatch公演を皮切りに開始された。

ツアー2公演目として11月2日(火)に行われた、KT Zepp Yokohamaでの公演に行って来たので、そこでのライブの様子をレポートしていく。

ライブ前半戦

KANA-BOONの入場SEが流れ始めると、古賀(Gt)、小泉(Dr)らが続々とステージ上へ姿を現す。サポートベースには、すっかりお馴染みとなったマーシー。仮にKANA-BOONメンバーを名乗っても、もはや誰も文句を言う人はいないのではないだろうか。それほどまでに、彼のベースプレイは絶大な信頼を誇る。昨年10月からおよそ半年間の休養を経て、今年4月に復帰を果たした谷口鮪の表情は晴れやかだ。

鮪の「戻ってきました、KANA-BOONです!ここからまた始めよう!」というセリフを合図に封切った1曲目は、いきなりの『ないものねだり』。2010年代の四つ打ちロックブームの火付け役ともいえる、絶対的なキラーチューンから始まるライブは、まさにKANA-BOONというバンドのリスタートを予感させる。鮪は「皆んなのリズム感を試してみたい」と口を零すと、オーディエンスに対して大サビ前の<ゆらゆらゆらゆら 君の心を>に合わせた手拍子を誘い、クラップ音に合わせてその歌声を響かせる。あまりにリズム感が良かったのか、「横浜、リズム感めちゃくちゃいいね!」「今日からここにいる皆んなKANA-BOONのメンバーです、堂々と名乗っていいです」と戯けてみせる様子が鮪らしさ全開で、何とも微笑ましい。ゆらゆらと心が揺さぶられていると、続いて2013年の代表曲『盛者必衰の理、お断り』のメロがスタート。<キリないないから ええよもう>という軽快なサビにつられ、踵が自然と地面から離れ、浮き上がる。元々、古賀のアグレッシブなギターサウンドが炸裂する曲なのは言うまでもないが、いつにも増してギターの鳴りが炸裂しているのを感じる。

M1,M2とエンジン全開に歌い切ったが、ここで止まらないのが、活動休止期間を経てパワーアップした現在のKANA-BOONの勢いだ。疾走感溢れるギターリフの導入とともに、『フルドライブ』に繋ぐ。アウトロ終盤ではドラムセットを中心に身体を向かい合わせ、各々が楽器をジャカジャカと共鳴させる様子から、バンドの調子の良さが伝わる。MCを挟み、ライブ定番の高速アッパーチューン『ディストラクションビートミュージック』でオーディエンスの熱量を際限なく増幅させると、続いて聴こえてきたのは小泉の刻むエイトビートが心地よい『結晶星』のイントロ。イントロだけでこれほどまでの多幸感に包まれる曲って中々ないよな、といつ聴いても思う。<君がしたいならそうすらいいじゃん/辞めたいならやめればいいじゃん><もういいかい もういいよ>と自暴自棄な印象の強い歌詞が続くが、精神的なダウン期間を乗り越え復帰した鮪の唄うそれらのフレーズからは、負のイメージではなく明るい”希望”の鼓動が伝わってくる。KANA-BOONとしてバンド活動を再開し、ツアーを本格的に回り始めた今こそ唄われるべき曲なのかもしれない。

『結晶星』を披露し終えると、2015年リリース『ダイバー』のカップリング曲『街色』、2ndアルバム『TIME』収録の『ターミナル』を続けて放出し、タイトに刻まれる小泉のビートが印象的な『Wake up』に繋いでいく。<目覚めよう 心の奥にしまった声を>と声高らかに、開放的に唄う鮪の様子は、当たり前のように休養期間のブランクを一切感じさせない。「ライブはまだまだこれから」と言わんばかりに勢いを加速させていく彼らは、「解放」がテーマの『Torch of Liberty』をドロップ。鮪曰く、どうやら神奈川ではまだ披露したことがないらしい。イントロで高速のギターリフが早鐘を打ち、終始ロックサウンドに振り切っているこの曲は、近年のKANA-BOON楽曲の中でもとくに硬質なロックアンセムではないだろうか。真っ向勝負なフレーズを格好良く唄う鮪、テンポの速い4つ打ちビートを力強く刻む小泉、アグレッシブに全身でギターをかき鳴らす古賀、ずっしりと骨太なベースを響かせるマーシー。個々の演奏力が集結することで完成し得るロックバンドとしての格好良さを、生の音を通じてダイレクトに見せつけられる。

『Torch of Liberty』で繰り広げられた「解放」の鼓動に胸が躍り続ける中、鮪が「俺たちの曲やります!」と言い放ち披露したのは『シルエット』だ。この曲抜きでは、KANA-BOONの歴史は語れない。野党から「KANA-BOONは『ないものねだり』だけのバンド」と揶揄された時代を乗り越え、2013年に世に出された絶対的な自信作。ファンにとっては勿論、彼らにとってもお守りのように大切な曲だ。息を吸い込み、堂々と歌い出したフレーズ<いっせーのせで 踏み込むゴーライン>は、鮪の復帰を機にバンドが再始動した現在の様子と重なる。楽曲の中核を成す古賀のギターは、本日最上級の切れ味を見せた。

「中2で音楽にハマった」「活動休止中も、好きな音楽をずっと聴いていたんです」「音楽への敬意を込めた曲」と語り、続いて『MUSiC』をドロップ。このとき、サビのフレーズ<聞きたくないものばかり 聞こえる世界だから/そんなもんは 聞こえないようにしてあげるよ>は誰に対して、どんな思いを込めて唄っていたのだろう。鮪が活動休止中の自分自身に向けて唄うのもイメージと合致するし、自分以外の悩みを抱えて生きる人々に対して唄っている姿も容易く想像できる。余談であるが、中2で邦ロックの魅力に気づいてしまった身としては、鮪の「中2で音楽にハマった」という言葉に反応せざるを得なかった。

ライブ後半戦

『MUSiC』の披露により、音楽の存在に対し各々思いを巡らせる良質な時間が流れる中、続けて強固なアンサンブルが舞い踊る『まっさら』、幼少期に鮪が経験した孤独の景色に重ねて『オレンジ』を歌い、祝祭感に溢れた歌詞が楽しい『ネリネ』に繋ぐ。「旅はまだまだ続くよ!」という鮪の言葉とともに唄われたこの曲は、コーラスも相まって、これまで披露されてきた楽曲にはないファンタジックな雰囲気を醸し出す。4人がステージ上で思うがままに音を奏でる様子に触発され、観ているこちらも一緒にプレイしたくなってしまう。

MCパートを迎え、「雑誌のインタビューでも未だ語っていないんですけど」と、活動休止の理由について語り出す鮪。「優しい心の持ち主が傷つきやすい世界に俺が生きてる意味あるのかな、と思ってしまったんですよね」と活動休止の理由の核心が明かされていく中、「歳をとって楽器が弾けなくなっても、KANA-BOONは続けます」「コーラスグループとして活動していきます」と笑いを誘う鮪。冗談なのか本気なのかわからない、どちらにせよ鮪の温かい人間性が感じられる言葉の数々には、グッとくるものがある。

「ギリギリだった俺の心を、あなたの存在が救ってくれた」「KANA-BOONの存在がないと、生きていけない人だっているかもしれない」「これからも、あなたの支えでありたい。ずっとあなたのそばに居させてください」と、鮪らしく優しさの詰まった言葉で締め括ると、本編最後の曲へ。「いつまでも、そばに」という言葉を合図に、ツアータイトルの元にもなっている最新曲『Re:Pray』のイントロを、ありったけの力を込めて奏で始める。<昨日まで生きていた命だって 連れていくよ>と唄う鮪の瞳に映るのは、自分たちの音楽を心から愛する人々で溢れた、決して当たり前ではない美しい光景だ。<新しい希望へと笑ったんだ>とラストのフレーズをアウトロの末端を極限まで引き伸ばし、ライブが終わりを迎えるのを名残惜しむようにいつまでも音を止めない彼ら。伸ばしに伸ばし続け、最後はドラムセットを中心に4人が向かい合い顔を見合わせ、力強く曲を締めた。

一度ステージを後にした彼らは、オーディエンスのアンコールに応え、再びステージ上に姿を現す。古賀にマイクが渡っている最中、突如髭の話になり、闇雲に話を広げようとする鮪。それを遮るように古賀はファンへの感謝やライブの感想を述べ、小泉はドラムセットの椅子の上に立ち、同様に言葉を残す。その後鮪は、もうすでにアルバムを製作中であることに加え、「一気に20曲書いた」という衝撃的なエピソードも語っていた。

鮪の「新アルバムに収録予定の新曲やります、バラードではないから安心してください」に対して古賀が「別にバラードでもええやろ」と指摘する微笑ましい掛け合いを見せると、続けて新曲『メリーゴーラウンド』を披露。鮪の言葉通り、バラードではなかった。ノリの良いアンサンブルが弾ける、今の彼らだからこそ唄える新たなメッセージソング。間違いなく名曲である予感がしたので、音源で聴ける日が来るのが楽しみだ。新曲を歌い終えオーディエンスの心を掴むと、最後にはダンサブルなナンバー『スターマーカー』を、カラフルなバンドサウンドに乗せ奏でる。再始動した彼らに待ち受ける明るい未来を、明るさに突き抜けた曲調そのものが示唆しているようにも感じる。<段違いに信じたい 飛び越えてもう一回/狭んでく君の視界を 僕らの世界を広く>とポジティブに振り切ったフレーズで曲を締め、およそ2時間に及ぶライブは幕を閉じた。

最後に

ボーカル・谷口鮪の復帰後初となるライブツアー『Re:PLAY TOUR 2021-2022』は、まだ始まったばかり。2公演目となる横浜公演を目にしたわけだが、改めてKANA-BOONの楽曲が持つ訴求力の大きさを感じた。

最低な夜を抜けるためには、KANA-BOONの音楽が必要不可欠なのかもしれない。そう思わせてくれる音楽を、彼らは変わることなく無尽蔵に生み出していくに違いない。

セットリスト

M1. ないものねだり

M2. 盛者必衰の理、お断り

M3. フルドライブ

M4. ディストラクションビートミュージック

M5. 結晶星

M6. 街色

M7. ターミナル

M8. Wake up

M9. Torch of Liberty

M10. シルエット

M11. MUSIC

M12. まっさら

M13. オレンジ

M14. ネリネ

M15. Re:pray

EN1. メリーゴーラウンド

EN2. スターマーカー

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